「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」展

初台のオペラシティにあるアート・ギャラリーにて。前半はノスタルジックな作風で、後半はコンセプチュアル・アートに近づいているという印象を受けた。故郷をはなれて人工的な都市に住まう人々の拠り所のなさ、「宙づり感」みたいなものが、ホンマさんの写真には息づいている。
ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー|東京オペラシティ アートギャラリー

マンガ『ミラーボール・フラッシング・マジック』ほか

ミラーボール・フラッシング・マジック (Feelコミックス)

ミラーボール・フラッシング・マジック (Feelコミックス)

いま絶好調なヤマシタトモコの新刊。すばらしい。瞬発力のあるオムニバス。毒を含みつつも爽快なカタルシス。少女マンガ界のポール・トーマス・アンダーソンかと思うよね。(カエルじゃなくてミラーボールってのが、さらに!)
ドントクライ、ガール (ゼロコミックス)

ドントクライ、ガール (ゼロコミックス)

裸族ネタ。これもほんとおもしろくて、何度読み返したことか……。
HER(Feelコミックス)

HER(Feelコミックス)

働く女子の本音マンガ。連作短編で、どれもいいのですが、靴(フェチ)の扱いとか、食事シーンのうまさとか、心にしみます。

マンガ『テルマエ・ロマエ』3巻

テルマエ・ロマエ III (ビームコミックス)

テルマエ・ロマエ III (ビームコミックス)

陰謀に巻き込まれつつもマイペースをくずさない、ルシウスの天然っぷりが光ります。ますます面白いなー。

『話の終わり』

話の終わり

話の終わり

去年のオリオン書房でのイベントで、「ポール・オースターの(超イジワルな)最初の妻」と都甲先生が(妙にしみじみと)紹介していたリディア・デイヴィスの処女長編、なにげなく読みだしたらすごいおもしろかった。記憶をテーマにした実験的な文体ではあるのですが、そういう前衛ぽさがちっとも難しくない。読みやすい。ほとんど一気読みでした。
すました顔でトボケたことを言う人のヘタレな恋愛事情、その赤裸々なつぶやき。えー、ちょっとこの人やばくない?と引きつつも、あ、でもなんか可愛いな……と思えてくるから不思議です。
インテリ女34歳、シゴトはそれなり順調だけど、ひとまわり年下のカレとの恋に破れ、「このまま一生ひとりだったらどうしよう」と孤独な将来におびえる……わー、とても他人事とは思えない!周りを見回すとそんな女子がうようよ……

ETV特集「カズオ・イシグロをさがして」

長崎生まれ、海洋学者の父に連れられて5歳で渡英し、もっとも有名な「英語で書く日本人作家」となったカズオ・イシグロ。英文学ファンにとっては既におなじみの存在でしたが、映画『わたしを離さないで』の公開で、より広く知られるようになったのではないでしょうか。「作家はテレビに出るべきではない」と言いながらも、おしゃれなスーツ姿で、淡々と言葉を選んでインタビューに答えるイシグロ氏は、ビジュアル的にもかなりカッコよかった……。現代作家にはイメージ戦略も大切なんだな−。
福岡伸一さんとの対談もおもしろかったです。イシグロ作品の魅力は、「記憶」をめぐる語り口のうまさ。そして、「子どもが大人になるときの痛み」が描かれている。……という福岡さんの指摘、鋭くて的確だなあ!と思いました。人はいつまでも無垢ではいられない。過去を意識的に語りなおすとき、イシグロ作品の主人公たちは、人生の苦みをかすかな痛みとともに飲みほすのです。

『欲望という名の電車』

翻訳劇の名作を松尾スズキの演出で。主演のブランチは秋山菜津子さん。ところどころ杉村春子に影響されているのかな、と感じる場面もあった。ブランチは歌舞伎でいうなら「立女形」の格にあたる役なのだろう。女の心をもった男、として演じるほうがハマる……。
秋山ブランチは、前半の場違いにまぎれ込んできた感じ、おどおどした芝居がよかっただけに、後半の「崩れ」はちょっと物足りなかった気もする。まあ狂気で落とす台本そのものが、現代の感覚ではもう古くなってるわけで……(初演は1949年)。秋山さんがまだ若くてキレイなので、それほど哀れがにじまない、というのもありますが。
期待していた池内くんのスタンリー、身体能力を活かし、存在感たっぷり。荒々しさと脆さの両面がくっきり出ていた。べそべそ泣いてる背中に、松尾さん本人がうっすら憑いてました……。演出家が自己投影しやすい役者なんだなあ、と思う。これからもどんどん大役に挑んでほしい。

『建築が生まれるとき』

建築が生まれるとき

建築が生まれるとき

著者は新進気鋭の建築家で、武蔵野美大の新しい図書館の設計者です。写真で見る内装はスリムでかっこよくて、ボルヘスの「バベルの図書館」に想を得て造られたものだとか。
文中に登場する「居場所」「弱い建築」「あいまいな建築」「ゆるやかなつながり」といったキーワードは、これからの時代の生き方にぴったりな気がして、同世代感覚というのでしょうか、共感できる点も多かったです。何かに所属し、何かを所有する生き方は、もう古い。大不況や災害に直面して、土地やモノにこだわる私たちはいかに無力であることか。ここ数年、つくづくと思い知りました。
箱(ハードウェア)ではなく、機能(ソフトウェア)でもない。世界と「つながり」を維持するためのモバイルでスマートな建築が、そうした柔軟でしなやかな生き方が、やがて主流となっていきますように。