ETV特集「カズオ・イシグロをさがして」

長崎生まれ、海洋学者の父に連れられて5歳で渡英し、もっとも有名な「英語で書く日本人作家」となったカズオ・イシグロ。英文学ファンにとっては既におなじみの存在でしたが、映画『わたしを離さないで』の公開で、より広く知られるようになったのではないでしょうか。「作家はテレビに出るべきではない」と言いながらも、おしゃれなスーツ姿で、淡々と言葉を選んでインタビューに答えるイシグロ氏は、ビジュアル的にもかなりカッコよかった……。現代作家にはイメージ戦略も大切なんだな−。
福岡伸一さんとの対談もおもしろかったです。イシグロ作品の魅力は、「記憶」をめぐる語り口のうまさ。そして、「子どもが大人になるときの痛み」が描かれている。……という福岡さんの指摘、鋭くて的確だなあ!と思いました。人はいつまでも無垢ではいられない。過去を意識的に語りなおすとき、イシグロ作品の主人公たちは、人生の苦みをかすかな痛みとともに飲みほすのです。