『私の日本語雑記』

私の日本語雑記

私の日本語雑記

新聞書評で見て気になっていた本。これで中井久夫さんのお名前を知り、みすず書房から出ている随筆集を読みだすキッカケとなりました。
日本語の特性についての話題からはじまって、その他の言語についても、雑談ふうのお話から、少し言語学的な領域に踏み込んだ考察などもあり、語学に興味のある者にとっては、とても刺激的でおもしろい一冊でした。
たとえば、それぞれの言語は、それが母語でない人たちにとって習熟するのが難しい。それは、その言語が「生きのびる」ため……各言語の特質を守るために、わざとそうなっているのでは?というご指摘とか。言葉というものを、有機的な、生き物みたいな存在としてとらえた発言でおもしろいですね。理科系の視点なのかも。(中井先生は、元ウィルス研究者でもあります)
また、ヴァレリーの詩の翻訳に関する覚え書きや、文体を完成させた作家は書けなくなる(だから変わり続けるか、沈黙するかしかない)というトピックも興味深く読みました。
翻訳の「翻」は「ひるがえす」という読み方もできるんだな、と気づきました。何かを翻すには、一方の端が固定されてないと。旗とかカーテンでも、一方の端を何かに結びつけておいたり、しっかり握っておかないと、ひらひらと風に翻ったりはしないわけで、それじゃ、固定された一方は母語のほうなのかな?