「ロックンロール」再見

2回目の観劇。初見ではストーリーを追うので精一杯だったけど、今回は余裕をもって楽しめた。あらためて戯曲のすばらしさに唸りました。それぞれの人物がたどる「運命」を知ってから見ると、各シーンに込められた意味合いが鮮やかになり、いっそう切なく感じる。
最近は自分が翻訳に凝っているので、せりふの訳し方にも注目してみた。「愛と平和」は「ラブ&ピース」かな?とか。哲学者が主人公なので、どうしても思想関係の訳語がカタくなり、耳で聞き取りづらくなってしまう。翻訳劇のジレンマも感じた。字幕で読ませるのとは違う、訳の難しさがあります。
好きな場面はまず、1幕でガンに冒されたエレナが「体と心」について激白するところ。トム・ストッパードの描く女性像は魅力的な人が多いですね。『コースト・オブ・ユートピア』でも、強さともろさを合わせ持つゲルツェン夫人の存在が心に残りました。
それから、プラハに戻ったヤンが「権力のしくみ」について述べるシーン。反体制側として行動を起こす人々も、同じ盤上で勝負することによって、かえって体制側に力を与えてしまう……。とても哲学的で、的を射た指摘だと思います。権力を無化する存在だけが英雄になれる。では、英雄の本質とは何か? それは西側だと「ロック魂とは何か?」という問いかけになるのではないでしょうか。
ラストの昼食会の場面も、人数構成や、人物の出入りのタイミングが計算しつくされていて……さすがベテラン劇作家、職人芸のうまさ! 合計で8人、4組の男女がテーブルを囲み、それぞれの世代間、親密度や立場の違いが、複雑に繊細にからみあって対立や和解をもたらし、次々と人が退場していき、エズミの孤独が浮かびあがったところで、エンディングに続く重要なシーンへ……という、一連の流れがドラマをもりあげ、本当にみごとなクライマックス。演劇の楽しさがギュッと濃縮されていて、息をつめて見守ってしまいました。ああ面白かった。