『囁きと密告』
- 作者: オーランドーファイジズ,染谷徹
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2011/04/26
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: オーランドーファイジズ,染谷徹
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2011/04/26
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
政治史だけが歴史なのではなくて……。その時代を生きた人々の息吹や、感情のゆらぎ、人間関係の複雑なせめぎあいなどから、リアルに浮かび上がってくる「歴史」の中にこそ、真実に近い何かがあるのだと感じました。
スターリン時代の強制収容所(グラーグ)システムが、おそろしすぎる……。何の罪もない市民がランダムに逮捕されて奴隷化され、国家の拡張のために過酷な環境で働かされ、使い捨てられていく。そうした社会システムの中では、人情や勇気をそなえ、他人をかばう強さをもった人たちから犠牲になってしまう。かえって日和見で冷淡な、積極的に他人を告発する人たちが生き延びる。家族がバラバラに解体され、多くの人生が無残に踏みにじられていくさまを読んでいると、無力感をおぼえます。圧倒的な現実を前にした人間は、なんと脆く、悲しい存在なのでしょうか。
でも、なぜか読後感は温かなものでした。一ヶ月以上かけて、少しずつこの大著を読み進めましたが、ラストでは、人間の強さや可能性を信じられる気がしてくるから、不思議です。声に出して物語ることや、記録に残すということは、歴史の犠牲者たちの情念を昇華する作用があるのかもしれません。(物語の「モノ」は怨霊のことで、物語るとは一種の鎮魂だといったのは、折口信夫でしたが……)
20世紀の前半は、農村が解体され、それを支える家族も解体されていった時代でした。都市化と工業化によって、先進国の人々は豊かさを手にしたように見えるけれど、大きな代償も払ってきました。第二次大戦と粛清によるロシアの犠牲の大きさには、ただもう呆然として、恐怖という感覚が麻痺してしまうほどです。
本書に登場する家族の資料が、下記のアーカイブで公開されています。
Orlando Figes [The Archives]