星新一と安部公房

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈下〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

星新一〈下〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

日本SFの黎明期を切り拓いた星新一の評伝。星製薬の御曹司で、森鴎外の妹(小金井喜美子)の孫という名門の出だったが、若くして父を亡くし、会社経営にもザセツしてしまう。家業を他人に奪われ、人間不信に陥った青年は、新しいジャンルの短編小説を書くことに生きる道を見いだしていく。
最相葉月さんのノンフィクションはストーリー性があって読みやすいです。説明とドラマ場面の配分も絶妙だなー。『絶対音感』でも母娘の絆が描かれていましたが、この本でも、家族や親子関係がテーマの底を流れている気がします。
安部公房伝

安部公房伝

さて、その星新一と酒場で同席するのを避けていた、という安部公房(新一に作品をけなされたのが原因らしい)。娘さんによる伝記が出たので読んでみました。SFを一般読者にも広めた新一と、前衛文学として世界的に高い評価を得た公房。現代社会にひそむ問題を、科学の知識をふまえてブラックに描き出す、という根っこは似ているけれど、方向性は真逆なふたりですね。
安部公房は北海道出身で、満州奉天で育ったという。長男で、若くして父を亡くし、東大卒なのは星新一と同じ(そして、どっちも奥さんがすごーく美人!)。公房には商才があったそうで、日本でも早くからワープロシンセサイザーを操ったりと、生き方そのものに器用さとしなやかさが感じられます。
思うに、権威や格式の下で育った人(新一)はポップをめざし、元からポップな人(公房)は高踏的に……というふうに、逆へ逆へと進む傾向があるのではないでしょうか?
アメリカで青春を送った父親の影響が色濃い星新一と、旧共産圏で大きな共感を呼んだ安部公房。などと、同世代のSF作家として、いろいろな面で対比できて面白いふたりです。