幸田文『闘』
- 作者: 幸田文
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1984/04
- メディア: 文庫
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結核が不治の病だった時代の療養所を舞台に、患者たちとその家族、治療者たちの人間模様を描いた傑作長編。次々と登場人物が入れ替わるので、「グランド・ホテル形式」の病院バージョン、という感じ。作者のまなざしはきびしく、ごまかしがない。病という難局に放り込まれると、ふだんは取り繕われている人間本来の愚かしさ・弱さがむきだしになる。あーいるいる、こういう人、と苦笑いしたくなるし、自分自身にもあてはまる弱点があばかれて、読みながら思わずドキッとさせられる。
日本語のもつ表現のゆたかさ、自在さに触れることができて、久しぶりに深々と呼吸できた気がした。翻訳文体は簡潔で機能的、それはそれで美しいものだけど、使える語彙が限られるので、やはりどこか「きゅうくつ」な面も否めない……。両方のいいとこ取りで、のびやかな自分らしい文体を作り上げていけたらなー、と思ったのでした。