仁木兄妹長編全集

仁木悦子出世作にして看板シリーズ。長編をまとめて読んでみた。

夏「猫は知っていた」:乱歩賞受賞作。兄妹コンビの素人探偵が、診療所の連続殺人事件を推理する。思慮深い兄は植物学専攻で、活発な妹は音大生。時代背景や小道具はさすがに古くなってるけど、出てくる人たちの性格とか感覚には、あまり古さを感じない。今読んでもみずみずしい。このシリーズは、女コドモが重要なポジションを占めてるのですが、それは一作めから共通してます。
秋「林の中の家」:少し登場人物が多くて混乱する。トーンは暗くなり、殺人だけでなく誘拐事件や失踪などがからみあって、ストーリーラインも前作より複雑になった。再生する家族のエピソードが微笑ましく、読後感はわりとさわやか。冬「棘のある樹」:これがシリーズ最高傑作じゃないかな。ムダな説明や描写がそぎ落とされ、洗練された語り口で読みやすい。次々と事件が起こり、あまり寄り道もなく、最後まで緊張感が持続する。登場人物たちも性質の陰翳がくっきりしてて、悪意の部分までふくめて魅力的。まとめ方もスマートでかっこいい。
春「黒いリボン」:シリーズ最後の長編。兄妹がそれぞれピンチに陥ったりと、サスペンスの要素も入ってきて一気に読ませる。あちこち遊び心に満ちているし、筆の余裕みたいなものが感じられ、読むほうもくつろいで楽しめる一編でした。