『わたしの渡世日記』

「デコちゃん」こと高峰秀子の自伝。ゴツゴツ?とした歯ごたえのある文体で、一昔前の東京っ子の喋り口調のよう。いったん読み出したら止まらないおもしろさ、でした。
高峰秀子は(現代の)女子にも共感しやすくて、人気の高い女優だと思う。小津映画での跳ねっ返りの「妹役」の印象。それから、美しい無表情がひたすらコワイ『華岡青洲の妻』の姑役も忘れがたい。
でも、何と言っても大好きなのは『浮雲』!回想シーンの、モノクロなのに、ぱぁーっと色づいたような満開の笑顔がすてきだし、森雅之と温泉にシケこんで、自堕落にすごしながらも、沈鬱な色気が漂ってくるところ……それから、屋久島での、いじらしくも哀れな、病みつかれた姿など。
この自伝を読み、まさに『浮雲』こそ、彼女の映画「渡世」を締めくくる作品だったのだな、と知り、胸がじーんとなりました。
わたしの渡世日記 上 (文春文庫) わたしの渡世日記 下 (文春文庫)