『ゴンチャローフ日本渡航記』

ゴンチャローフ日本渡航記 (講談社学術文庫)

ゴンチャローフ日本渡航記 (講談社学術文庫)

『ゴンチャローフ日本渡航記』、思ったよりも退屈せず、一気に読めた。さすが小説家だけあって、ゴンチャローフの筆はなめらかだ。感激しやすい詩人の魂と、クールな観察眼を兼ね備えてる。どうやら享楽的で飽きっぽい性分らしく、長編作家として大成できなかったのにもうなずけます。そんなとこも含めて、愛らしいキャラクターですけど。
長崎上陸の章では、ロシア人ならではの観察力・分析力が、あますところなく発揮されている。登場人物もみな印象的で、どこかしら小説っぽい。外交というのは「おもてなし」の仕合い、というのが、よくわかる。日露外交史の、こんな最初の頃からそうだったなんてね。
とりわけ川路聖謨の存在は強い印象を残す。ロシア船に招かれた日の、彼の日記も引用されているが、水兵らの服装、食事の説明など、ゴンチャローフの着眼点と、驚くほど似通っているのがおもしろい。